東京高等裁判所 平成11年(う)162号 判決
原判決は,現場道路を制限速度である時速40キロメートルで走行していた場合に危険を感じて直ちに急制動の措置を取ったときの停止距離は,摩擦係数を0.70,空走時間を0.6秒とすると,15.5メートルとなり,これに対して,被告人が事故時に被害者を発見したときの被害者の位置は被告人の前方約18メートルで,被告人が被害者を発見した地点から被害者に衝突した地点までの距離が15.5メートルであることからすると,被告人が制限速度を遵守して進行していれば,被害者を発見して直ちに急制動の措置を講ずることにより,本件死亡事故を回避し得たものと認められるとしている。
しかし,被告人が時速約60キロメートルで走行中に被害者を発見して直ちに急制動の措置を講じたものの,15.5メートル進行して同人に衝突したというのであるから,原判決の論理を前提にすると,本件事故を回避し得るためには被害者を発見後急制動をして停止するまでの距離が右の15.5メートルよりも短くなるような速度で進行する必要があることになろう。しかるに,原判決は,制限速度である時速40キロメートルで走行していた場合の停止距離を15.5メートルと認定しており,被告人がこの速度で走行していたとしても本件事故は回避できなかったのに,被告人が右の制限速度を遵守して進行していれば本件事故を回避し得たと認定しているのであるから,原判決の右認定には,論理矛盾があり,ひいては過失の認定について事実誤認があるといわざるを得ず,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。